「“属性”から“個の活躍”へ」(前編)
KDDIが描くDE&Iの進化と、スポンサーシップが生んだ組織変革

2026.04.08

※本記事における登壇者の所属名および掲載写真につきましては2026年3月取材時のものとなります。

社名
KDDI株式会社
所在地
東京都港区
業種
電気通信事業
大野宏様
コーポレート統括本部 人事本部 人事戦略部 DE&I推進室 グループリーダー 

大野宏様

はじめに

― 「数字」を追うDE&Iからの脱却。KDDIが見出した本質とは

DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)の推進は、今や企業にとって不可欠なテーマです。しかし、「女性管理職比率」などの外部から求められる数値目標の達成が自己目的化し、「なぜ自社でやるのか」という本質的な意義を見失っている企業も少なくありません。

2007年から長年DE&Iに取り組んできたKDDI株式会社も、かつて同じような「違和感」と大きな問いに直面しました。

「数値目標を達成することが、本当に私たちの目指す姿なのか?」

本記事(前編)では、同社がいかにして“属性重視”のDE&Iから脱却し、個人と組織の力を最大化する「個の活躍」へとコンセプトを再定義したのかに迫ります。

女性の次期経営人財育成・登用のための「スポンサーシッププログラム」導入の裏側や、個人の努力に依存しない「組織との両輪」の仕組みづくりについて、KDDI株式会社コーポレート統括本部 人事本部 人事戦略部DE&I推進室室長 大野様に詳しくお話を伺いました。

ご支援前の状況
  • 女性管理職比率などの数値目標の達成に向けた取り組みは進んでいたが、DE&Iの本質的な意義を組織全体でさらに浸透させていく余地があった。
  • 女性や障がい者など属性ごとの施策は一定程度展開されていた一方で、一人ひとりの強みを最大限に活かす視点での取り組みをさらに強化していく必要があった。
  • 各種施策は実施されていたが、組織として継続的に機能させていく仕組みや文化としての定着に向け、さらなる発展が期待されていた。
  • リーダー育成についても取り組みは行われていたが、個々の特性やキャリアに応じた成長支援の充実が次のテーマとなっていた。
プロジェクトのサマリ
  • DE&Iのコンセプトを「属性」から「個の活躍」へと発展させ、一人ひとりの強みを組織の力へと転換する考え方を明確化した。
  • 上位層が伴走するスポンサーシッププログラムを導入し、次期経営人財を個別性に基づいて育成する新たな仕組みを構築した。
  • 経営層のコミットメントと現場での実践を両輪で推進し、全社的な意識変革と行動変容を加速させた。
  • 個別施策にとどまらず、育成や働き方などを横断的に連動させることで、組織変革が持続的に機能する基盤づくりを推進した。

DE&I推進の背景と目指す姿外部要請から、自社の意義へ

川嶋:
まず、KDDI様がDE&Iを推進してきた背景について教えてください。

大野様(KDDI):
当社では2007年にD&I推進室を設置し、取り組みを本格化しました。
当時は、社会的要請や投資家からの期待もあり、「女性活躍推進」が中心テーマでした。

女性管理職比率の向上、両立支援制度の整備、障がい者雇用の推進など、いわゆる属性に基づく施策を着実に進める一方で次第に課題も見えてきました。一般的に社会から要請される数値目標や、外部要請への対応を目的にしてしまうと、「なぜ、KDDIとしてやるのか」という意義が不足し、本質的な企業価値向上につながらないということです。

そのため、近年は当社らしいDE&Iの意義や取り組みの軸を見直してきました

川嶋:
御社が目指すDE&Iのコンセプトや、目指している組織の姿についてもお話を聞かせていただいてもよろしいですか。

大野様:
はい。属性面の多様化や、属性を考慮した働きやすさについては、引き続き重要だと考えています。ただそれだけでは不十分です。私たちは特定の属性や誰かだけではなく、全社員一人ひとりにとって意味のあるDE&Iにしていきたいと思い取り組んでいます。

コンセプトは「多様な個性をどんな状況でも障壁なく、組織の強みに活かすこと」この考えをKDDIフィロソフィ(当社の行動指針)にも反映し、会社全体で推進しています。

トップダウンとボトムアップで進める、個の活躍を支えていく取り組み

川嶋:
「個の活躍」を支えるために、どのような具体施策を進めていらっしゃいますか。

大野様:
大きく分けて、トップダウンとボトムアップ(風土改革)の両面で進めています。

まずトップダウンでは、経営層のコミットメント強化として25年度から「DE&I推進会議」を設置しました。
これまでは女性活躍にフォーカスした「女性人財開発会議」を設置していましたが、25年度からは議論テーマを性別以外(障害のある社員の活躍や年齢、個性の違い)も含む「多様な社員の活躍推進」へと拡大し、経営層と定期的に議論しています。

次にお伝えしたい取り組みが「パネルガイドライン」です。
今までは対外的な大きな発表の場においては男性役員が発表するという形があったのですが、パネリストの25%以上、もしくは少なくとも1名は女性または39歳以下の若手を含めるというガイドラインを設けました。

実際に今年度は新サービス発表会や高輪の新オフィスのお披露目イベントでは若手社員や女性社員が前面に立っています。このような取り組みをはじめとして、属性や年齢の壁を越えて多様な視点の意見が尊重される風土の醸成にむけてイベントや研修等にも取組んでいます。

また取り組む上で意識していることは点(単発の制度導入)ではなく、面(全社的な仕組みと文化変革)で取り組んでいることです。

例えばジェンダーギャップ解消では女性育成・登用だけに着目するのではなく、男性の育休促進、全社員の働き方アップデートなど多様な施策を有機的に繋げ、仕組みとして変革が回ることを意識しています。

川嶋:
素晴らしい取り組みですね。海外では、パネリストの属性に偏りがある場には登壇しないと公言してCEOも多くいらっしゃいますが、KDDI様は、パネルガイドラインを通じて自社の姿勢を明確に示されていらっしゃいますね。さらに、こうした取り組みを個別の施策にとどめず、「点」ではなく「面」で捉えて推進されている点にも、強いこだわりを感じました。

スポンサーシップ導入の背景 数字ではなく本質へ

川嶋:
個人と組織の両輪でDE&Iを進められる中で、スポンサーシッププログラムを導入された背景や課題意識、導入への想いは何だったのでしょうか。

※スポンサーシッププログラム:2024年4月より経営基幹職(管理職)候補者の女性社員(スポンシー)の上位職位登用に向け、本部長層(以下 スポンサー)が女性社員のスキルアップを伴走支援するプログラム。任期は原則1年。

大野様:
正直に申し上げると、女性管理職比率という数字だけを追うことへの違和感が出発点でした。本質的な女性活躍とは何か。その答えは、「一人ひとりの育成」にあると考えるようになりました。特に次期経営人財候補となる女性に対しては、一律の研修ではなく、個別性を活かしたプログラムを希望していました。

スポンサーシップは、上位層が一対一で伴走し、個に向き合いながら成長を後押しする仕組みです。「女性だから」ではなくその人の強みと可能性に向き合える点に共感しました。

◇個別性を活かす育成の仕組み

スポンサーシッププログラムではプロファイリングテスト(タレントダイナミクス)を活用。

タレントダイナミクス…人の思考特性・行動パターンを分類し、強みが最も発揮される役割や環境、育成方法を理解するためのアセスメント

スポンサーシッププログラムでは、スポンサー・スポンシーそれぞれのプロファイルを把握し、スポンシーの強みや特性に合った育成方法をスポンサーが習得。スポンシー(女性社員)は、自身の強みを活かすリーダー像を実現。

大切なのは、女性としてではなく、一人のリーダー候補としての育成

川嶋:
女性という括りで一律に育成するのではなく、一人ひとりの個性や強みに着目したリーダー育成という姿勢に共感くださったのですね。スポンサーシップは、経営の観点では、サクセッション(後継者育成)の一環でもあります。一人ひとりに対して、限られた期間で飛躍的な成長を生み出すためには、個別性と向き合っていくことが重要である考え方が、個を活躍させるというKDDI様のお考えと、非常に親和性が高かったということですね。

それではこの後、実際にスポンサーシップに参加されたスポンシー(女性リーダー)のお二人にもお話をお聞きしてみたいと思います。(後編へ)

インタビュアー
ウーマンズリーダーシップインスティテュート株式会社 代表取締役

川嶋 治子(かわしま・はるこ)

川嶋 治子(かわしま・はるこ) ウーマンズリーダーシップインスティテュート株式会社 代表取締役  早稲田大学大学院経営管理研究科卒業 経営学修士(MBA)  DE&I推進、人的資本経営、女性リーダー育成、次世代経営層育成を専門とし、上場企業・外資系企業・官公庁に対して戦略アドバイザリーおよび組織開発支援を提供。これまでに延べ5万人以上の経営幹部人材育成を担い、 経営戦略と人材戦略を接続する“経営直結型”のアプローチに定評がある。 社外取締役や理事としてガバナンス領域にも貢献。

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